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山口地方裁判所 昭和59年(レ)7号 判決 1984年9月27日

控訴人

柳川昭一

右訴訟代理人

丸茂忍

被控訴人

金子ハル子

右訴訟代理人

三浦諶

主文

一  本件控訴を棄却する。

(なお、原判決主文第一項を、「一1 控訴人が、別紙物件目録(一)記載の土地のうち別紙図面の斜線部分の土地について、囲繞地通行権を有しないことを確認する。2 控訴人が、別紙物件目録(二)記載の土地を要役地、右斜線部分の土地を承役地とする通行地役権を有しないことを確認する。」と訂正する。)

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。

2  右取消にかかる部分の被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  被控訴人の請求原因

1  被控訴人は別紙目録(一)記載の土地(以下(一)土地という)を、控訴人は同目録(二)記載の土地(以下(二)土地という)をそれぞれ所有しており、(二)土地はかつて公路に通じない袋地であつた。

2  控訴人は、昭和四〇年一二月二〇日、(二)土地の東側と幅員二メートルで接し、公路に面する別紙目録(三)記載の土地(以下(三)土地という)を取得したため、(二)土地は袋地ではなくなつた。

なお、当時(三)土地には建物があつたが、昭和五六年一二月ころ右建物は解体され、公路への通行が可能となつた。

3  控訴人は、(一)土地の東側部分(別紙図面の斜線部分、以下本件通路という)につき、囲繞地通行権もしくは通行地役権を有する旨主張する。

よつて、被控訴人は、控訴人に対し、本件通路につき、囲繞地通行権及び通行地役権がいずれも存在しないことの確認を求める。<以下、事実省略>

理由

一囲繞地通行権について

1  請求原因1の事実及び同2の事実のうち、(三)土地を経て(二)土地から公路への通行が可能となり、(二)土地が袋地でなくなつたことを除くその余の事実は、当事者間に争いがない。

2 ところで、民法二一〇条所定の囲繞地通行権は、当該土地が同法条所定の囲繞地であることにより、同土地所有権の内容として当然に発生するのと同様に、囲繞地でなくなることにより、直ちに右通行権は消滅するものであるところ、これを本件につきみるに、前記争いのない事実によれば、(二)土地はもと袋地であつたが、控訴人は、昭和四〇年一二月二〇日、一方公路に面し、他方(二)土地との隣接部分が二メートルある(三)土地を取得し、さらに、(三)土地上にあつた建物も昭和五六年一二月ごろには解体されたというのであるから、(二)土地からは同じく控訴人の所有である(三)土地を経て公路に至ることが可能となり、(二)土地はもはや右囲繞地といえないことは明らかであり、右説示したところから(二)土地所有権の内容たる囲繞地通行権は、昭和四〇年一二月二〇日には消滅したものといわなければならない。

3  <証拠>によれば、(三)土地は、(二)土地よりも六〇センチメートル高く、右両土地には段差があること、右両土地の幅二メートルの隣接部分附近には控訴人側で構築したブロック塀のあることが認められるが、右段差及びブロック塀の存在は前記判断を何ら妨げるものではない。また控訴人は、公路に接する本件の(三)土地のような土地が独立の利用価値を有する場合は、これに隣接する土地(本件の(二)土地)は、両土地の所有権が同一人に帰属し、結果として公路に通ずることとなつても、いまだ囲繞地であることに変りはないとも主張するが、右主張は独自の見解であつて、当裁判所はこれに左袒できない。

二通行地役権について

1  設定契約による通行地役権

右通行地役権については、その設定契約の存否に先立つて、控訴人が右通行地役権を有する場合、これを被控訴人に対し主張しうるか否かをまず検討するに、控訴人が承役地であると主張する本件通路は(一)と地の一部であつて、(一)土地の旧所有者であり、また控訴人によれば右設定契約の当事者であつたという島田は、(一)土地を日通に、同社はこれを被控訴人の夫であつた亡金子に、順次売り渡したこと(請求原因3及び再抗弁事実)は当事者間に争いがないから、右金子の包括承継人であることが本件訴訟手続の経過により認められる被控訴人に対し、控訴人が右通行地役権を主張するには、対抗要件として少なくとも右承役地につき地役権の設定登記のされていることを要するところ、右設定登記のあることについては何らの主張がない。

してみると、前記通行地役権設定契約の存否につき判断するまでもなく、控訴人の被控訴人に対する前記抗弁は失当といわなければならない。

2  調停による通行地役権

<証拠>によれば、亡金子が日通から(一)土地を買い受けるについて、日通は金子に対し、(一)土地については抵当権、賃借権その他同土地の所有権の行使を阻害する何らの権利の設定がされていないことを保証し、また金子も当時本件通路に通行地役権が設定されているとは聞かされていなかつたこと、金子の家族と控訴人の家族は遅くとも昭和五四年五月ごろからは意思の疎通を欠き、事ごとに対立し、感情的にもなつていたが、金子が本件通路の公路側入口に垣を設けようとしたため、従前から同所を通行してきていた控訴人の父柳川一郎は昭和四〇年六月一四日、岩国簡易裁判所へ、本件通路につき同人が通行権を有することの確認が得られるよう調停を申し立てるに至つたこと、右申立に際して柳川一郎のいうところは、(二)土地及び同地上建物には公路に至る道がなく、通路としては本件通路が唯一のものであつて、旧所有者はもとより、控訴人も右通路を通行してきたというものであつて、本件において主張しているような通行地役権の設定契約があつたことは述べていないこと、そして成立した調停の条項においては、金子は、控訴人(調停参加人)が本件通路について(二)土地に対する通行権を有することを認めるとなつていること、以上の事実が認められ、反証はない。

右認定の調停条項のうち「(二)土地に対する通行権」なる文言だけからみると、右条項にいう通行権は通行地役権であると解する余地がないではないが、当時の調停関係者の意向を窺知するに参考となる右調停の具体的経過についてはこれを証明する証拠はなく、右条項を含めて右調停の調書及び調停申立書の各記載を検討すると、調停当事者はいうまでもなく、調停委員会も囲繞地通行権と通行地役権の相違を明確に意識し、それを念頭においていたかについては疑問がある。かかる事情に加えて通行地役権と囲繞地通行権にはその効力に差のあることも考慮に入れて、調停成立時における当事者の合理的意思を推究するに、前認定の事実を総合すれば、右調停手続において金子と控訴人との間に確認されたのは囲繞地通行権にすぎなかつたことが推認され、これと異り、それが控訴人主張のとおり通行地役権であつたことを認めうる証拠はない。

3  時効取得による通行地役権

民法二八三条によれば、地役権は、継続かつ表現のものに限り時効取得することができるものである。そして右継続の要件としては、承役地たるべき他人の土地の上に通路の開設を要し、その開設は要役地所有者によつてなされることを要すると解すべきところ、控訴人において、本件通路を開設したことの主張、立証がないので、右時効取得に関するその余の控訴人主張の事実につき判断するまでもなく、時効取得の主張はこれまた失当という他はない。

三以上のとおりであるから、被控訴人の前記本訴各請求はいずれも理由があり、これらを是認した原判決は正当であるので、本件控訴を棄却することとし、なお原判決主文第一項は、その措辞において明確性に欠けるところがあるので、これを訂正し、控訴費用の負担につき民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(大西浅雄 岩谷憲一 木村元昭)

物件目録

(一) 山口県岩国市錦見五丁目一〇二六番二

宅地 118.57平方メートル

(二) 右同所  一〇二六番三

宅地 131.20平方メートル

(三) 右同所  一〇二九番

宅地 132.23平方メートル

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